記憶喪失マスター ホルス奮戦記 最終話 〜白の癒し手、アリエル最後の聖戦、って、あれ?私が悪者?〜
「今度の通信は白魔法の使い手、癒しのアリエルさんです」
毎度の他の魔術師との外交交渉の前の打ち合わせ。
「マスターとは白魔法の使い手同士、相性はいい筈何ですけど・・・」
使い魔はため息をつく。
相性は良くても、きっとまた駄目なんだろうなという、疑いを通り越した諦めの目。
「まさか、そんな何度も失敗する筈ないじゃないか、あははは」
そう言いつつも、使い魔の目をまともに見れない私、あさっての方向を見てうつろに笑う。
「アリエルさんは魔術師の中では人格者で通ってますから、よっっっっっっぽど、マスターが変な事いわない限り、大丈夫な筈なんですけど」
「そ、そうか、なら今度こそ友好関係を気づけそうだな」
「金髪美人ですし、凡俗のマスターが『げへへへ、姉ちゃん、別嬪やな』なんて言っても。眉をひそめるだけで、いきなり断交、全面戦争コンボは無いと思いますけど」
「だれがそんな事を言うかっ、それに凡俗言わない、」
「お願いしますよ、マスター、今度こそ、今度こそ、顔見せの時点でアウトっていうのは無しにしてください」
使い魔は懇願するように言う。
そんなに私は信用が無いのか?
まあ、今までが今までだがら、あまり無いと思うが、いくらなんでも、そう何回も致命的な失を〜繰り返す筈は・・・・・筈はないよな?
「まかせろ、大丈夫だ」
「不安です、マスターに大丈夫と言われると、とっても不安になります、またとんでも無い事をアリエルさんに言うんじゃないかと・・・・」
「あり得るな」
あまりに使い魔が悲壮感を漂わせているので、ちょっとしたお茶目を言ったつもりだったんだが、逆効果だったらしい。
使い魔の顔が驚いたままで固まっている。
あ、これなんかデジャブ。
そう。毎回の外交交渉でこういう沈黙の後、決まって相手が
「・・・・・・・マスター、それ言ったら、本当に今度こそ刺しますよ」
キレるのだ。
フンッと、そっぽを向き、後はなんにも喋ってくれなくなる使い魔。
どうやら私は使い魔との交渉すら失敗したらしい。
先行きとっても不安。

「色即是空、無念無想、無我の境地で相手と接しなければ」
なぜそこまでしなければならないのかと、ふと思わないわけでもないのだが
こうも失敗し続けると、ひょっとして私はまともな交渉能力が無いのではないのかと思ってしまう。

今更、何言ってんだかと、
使い魔に尋ねてみれば、そんな事言われそうだがら聞かない。

ぶいん

鏡の魔力が活性化する。

まず目についてのは、その見事な金髪の輝きだった。
「む」
「うわー」
なにか魅了の呪文でもかかっているのか、フワリと軽く靡く、アリエルの黄金の髪、あり得ないのに、漂う芳香まで感じて、陶酔感に包まれてしまう。
使い魔も同じように感じたのだろう、魅入っている。
「あなたがホルス殿ですか、ご高名は伺っております
わたしく貴男の事は尊敬しておりますのよ」
にこりと上品に笑う。
このような女性にそのように言われるとは
「そうですか、恐縮です、アリエル殿こそ、その癒しの力、女神と称えられる程とか」
「まあ」
自分でも驚く程紳士的な態度がとれてしまう、いつものあの訳の分からぬ衝動というか、ネタ心というか、そんな妙な感覚に襲われることも無い。
これはいける、今度こそ成功する。
晴れ渡る大空のような心持ちでアリエルと対する。
「各魔術師に合うなり、暴言を吐き、宣戦布告ならぬ宣戦誣告をもって、相手に我を忘れさせて心をかき乱し、後は容赦なく叩き潰して全てを奪い尽くす」
「は?」
急転直下、暗雲立ちまくり、あ、今、どっかで雷鳴が聞こえた気が。
思わずアリエルを見る。
恐ろしいことに笑顔は先ほどと変わらない。
「そんな貴男に比べれば私の名声など塵芥も同じでしょう、女神などという言葉などと言われるなど、おごがましいですわ、本当に女神なら」
そこで、アリエルは顔を伏せる。
さてと、この間に逃げ出すか、と椅子から腰を浮かせるが。
「貴男のような邪悪な魔術師、とっくに討伐しています」
逃げられなかった。
あー、やっぱりあの髪なにか魔力がかかってるのかなー、
いま、なんか蛇に見える、もしかしなくてメデューサ?
私が女神をそこまで堕とした?

「そこまで、徹底できる貴男を私は尊敬しておりますのよ、とても私にはそこまでは出来ません、したくも無いですけど、たとえ魔術師同士の戦争といえども最低限守るべきルールというものはあるのではないのでしょうか?」
はい、ごもっともです。
でも、なんで私に言うですか、アリエルさん、私何かしましたか?
ひょっとして、この戦争で起きた悪い事全部私のせいにしてません?
それって、敵のプロパガンダとかそういう考えないんですか?
思いこみ激しい人ですね、あはははのは。
なんかそんな空しい言葉が頭の中をぐるんぐるん回ってる。
因みに遣い魔はもうどうでもいいやと、手足を拡げ、まるでなにかの動物の敷き皮みたく打つ伏せになってふて寝してる。
私だって、このままベットに直行して布団かぶりたい。
「私も覚悟を決めます、私と貴男、貴男が滅ぶまで、私は戦う事をここに宣言します」
アリエルさん、どさくさ紛れに自分の方が絶対が勝つって宣言しちゃってるよ。

ぶつん

通信はきれた。
がっくりと私の気力もきれた。
「マスター」
「なんだ?」
「戦争準備してきます」
「ああ」
「マスター、戦争って空しいですね」
「まったくだ、本当に人の心を荒ませる」
しみじみ思った。

「それで、アリエルのプロフィールだが」
戦うと決まった以上負けるわけにはいかない。
相手の情報を使い魔に聞く。
「えーと、言わずと知れた白10のライフ魔法の使い手です特殊能力は魅力でマスター以外の誰もを魅了する」
「おい」
「政治目標は神秘主義で、性格もマスター以外は平和的ですね、マスターは平和敵っと」
「だから、いちいち私を特別扱いしなくていい」
「それで率いる種族は・・・・・」
使い魔がそこで言葉を詰らす。
「どうした?」
「あー、マスター、アリエルさんもノールを率いてます」
「・・・・・ノール?」
てー、事はあれかい?
「またウルフか?」
「今度はグールは混ざらないだろうし・・・・・あ、僕たちの軍とアリエル軍の戦力比が1:2で僕達が不利ですね」
「・・・・・・・・」
「あははは、今度は101匹大行進じゃすみませんね、あはははは」
「あははははは」
私と二人はお互い乾いた笑いをあげ続けた。

こうして始まったアリエル戦だったが、アリエルの領土は別大陸にあり、アリエル自身積極的な攻勢に出るつもりがないのか、暫くは戦いも無く平穏に過ぎた。
こちらはその間に英雄〜ずと主力部隊を、アリエルの領土の大陸に一番近い街へと集めた。
「流石に白き癒し手のアリエル、いざ開戦となっても自ら手は出さぬか」
我ながら妙な感心をしつつ、さて、どのように橋頭堡を築いたものかと、戦略地図を眺めていた私の所へ使い魔がやって来た。
「マスター、準備が整いました」
「うむ、すでにこの魔術師戦争で残っているのは私とアリエルだけだ、両雄並び立たず、開戦は不可避、アリエル軍が動かぬうちに、我が軍の集結は完了した、ここまで来たら後は何も言う事はない、進め、そして勝て、まずは、アリエルの居る大陸に橋頭堡を造れ」
私が命じると使い魔は復誦する。
「分かりました、残っているのはマスターとアリエルさんだけで戦うしか無いのに、私にも外交は出来るんだいと未練たらしくやった挙げ句に相手にされず、すねて覚悟を決めたマスターとアリエルさんの戦いは不可避、ここまで来たら作戦考えるのも面倒だし、なーーーんにも思い付かないから、ユニットの質に頼って力押し、もう何も言わなくて良いです、マスターは、必ず僕達がアリエルさんの居る大陸に橋頭堡を作ってみます」
ちなみに私はその長い復誦の間にこけている。
「どうしました?マスター」
「お前は、どうしてそうひねた表現でしか復誦が出来ないんだーーーーーっ!!」
と、怒鳴り終える前に使い魔はとっとと出ていってしまった。
く、相変わらず逃げ足は早い奴。

アリエルの領土である大陸への上陸作戦における戦いは熾烈を極めた。
敵の主力はウルフ部隊、前に戦ったシャーリー軍と同じなので、我が軍の将や兵もあしらい方は心得ていた筈だが、数が違った、なにより士気が違った。
「ぬおっ、なんだこやつら」
あのブシャンが戸惑う。
「こ、この人達は」
普段、優雅にとか言っているセレナにも余裕が無い。
「そんな、私マスターを殺すまでは死ねませんっ」
こんな事言っている奴でも術者の能力は貴重だ。
「こう、動物を相手にする時はデスね、怖がってはいけません、すぐに見抜かれてしまいます、さあ心を開きましょう」
こいつは逝って良し。
英雄がこのざまでは他の兵は推して知るべし、数々の戦場で敵を飲み込んできた、バーサーカー軍団の赤い波が散り散りにされる。
ハンマーヘッド隊も
「なんじゃこりゃ、もぐら叩きのもぐらが一斉に全部出てきおった」
と慌てている。
こちらの予想を遙かに超えた、怒濤の勢いのわんわん大行進。
アリエル軍の士気は異常に高かった。

「全てはアリエル様の御為にーーーーーーっ!!!」
「大アリエル帝国万歳ーーーーーーーーーっ!!!」
「アリエル様、マンセー、マンセーーーーっ!!!」
「アリエルたん、萌え萌えーーーーーーーっ!!!」

「なんだあれは!?」
戦場の異様な光景に、私は思わず椅子を倒して立ち上がり、傍らの使い魔を見る。
「あれは、戦いの祭壇によって極限にまで戦闘能力を高められた兵達です、
どんな人間、種族をも精鋭兵すら越える精強兵に返るという大魔法・・・・」
淡々と説明する使い魔だが、私の聞きたい事はそんな事じゃない。
「いや違う!、私が異様に思ってるのはそこじゃない!、あの最後の奴が言った言葉だ、あれだあれ!」
私も白の魔法を使う者、そういう大魔法があるというのは知識では知っている。
それを使って来る事はある程度は予測していた。
しかし最後の奴の言葉は予想外だ、というか兵じゃないのも突撃に交じってないか?
「だ・か・ら〜、どんな人や人種でも精強な兵に変えるって言ったじゃないですか」
「どんな人・・・・・も?」
そういえばそうだった。
「戦いの理由は人それぞれです、その想いを極限にまで高めて暴走させ、肉体の限界を超えさせるというのが戦いの祭壇」
「なんて恐ろしい魔法だ、最強じゃないかっっっっ」
「全くもって、かくも人の心の闇は深いものです」
萌え萌え〜という響きが響く戦場を見て、使い魔はうんうん頷く。
「アリエル軍の動員能力の高さは住民皆兵制にあるようですね、しかも最高税率でお金ざくざく、部隊作りまくり」
「なんだそれは・・・・・そんなの私の国でやったら叛乱民が群がり起こるぞ」
「マスター、この標語見ました?」
使い魔が細長く丸めたポスターのようなものをコロコロと私の方へ転がしてくる。
開いて見ると

『欲しがりません勝つまでは、暇もお金も特に命は』
『足らぬ足らぬぞ、命が足らぬ』
『進め一億肉の壁』

「・・・・・・・」
「大魔法である命の息吹、都市にかければ、なにをしても反逆者が0になるという魔法です」
「・・・・・・・」
「マスター?」
顔に手を当てたまま、何も言わない私をいぶかしく思い、使い魔が声をかけてくる。
「おかしいなー、不思議だなー、こうアリエルの白いイメージが黒くと言うか、ライフ魔法が呪い魔法のようにと言うか、なんか、カルト集団かどっかの将軍様の国と戦っている気が・・・・・」
ぶつぶつ私が言っていると、使い魔が驚きの声を上げる。
「あ、敵がマスゲームまで始めた、マスター、僕達舐められてます」
「・・・・・・脱国も出来ない点は、より悪質だな・・・・」

とにかくこちらの英雄〜ずや歴戦の精鋭兵、アダマンナイト部隊で圧倒するつもりが、互角の消耗戦に入ってしまった。
「マスター、敵は神の加護かけまくりで、こっちがいくら攻撃しても倒れません!」
「ええい、魔法浄化最大出力っ」
アリエルの神の加護、聖なる武器の付与に対抗してこちらも魔法浄化を唱える。
こうなると戦場魔法でのサポートが著しく限定されて、後は兵のぶつかり合いに任せるしかなくなる。
次々に倒れていく我が軍の兵、胃の辺りがきゅっと引き絞られるように痛くなってくる。
敵に与える損害はこちらが多いが、敵は数が多い。
そんな中でも
「ふははははははは、なんという事、外れる事がない、名誉だぞ貴様等、我が高貴なる矢、一本余さず受ける事が出来る」
「おほほほほほほ、観客は多ければ多いほど良いですわ、さあ、私の華麗な舞いを見なさい」
「みなさん、そうです、そう、なぎ払え、蹴散らせ、まるでゴミのようだと、はい、合唱して下さい、支援は私に任せて、さあ、マスターの腹を抉るように敵の腹を抉って」
「いやー、まるで荒波を滑るようにいくようだ、ぼかぁ幸せだなぁ」
流石は我らがコワレの英雄〜ず、最初の混乱からすぐさま立ち直り、敵を蹴散らしていく。
なんか気になる発言もあったが、それはまあ気にしないでおこう。
英雄〜ずの活躍で兵も統制を取り戻し、ついにアリエル軍を壊滅させ、海岸線にある街を占領し、大陸の橋頭堡を築く事に成功した。

少なからず損害を出して橋頭堡を築く事に成功したが、アリエル軍はしつこくてしぶとい、叩いても叩いても我が軍を海へと追い落とそうと、次から次へやって来る。
英雄〜ずは、アリエル軍の矛先を少しでも分散させる為にそれぞれ部隊を率いて、内部の街の占拠に向かった。
いくつかの街を取ったが、防御に兵をさけない、そんな事をすれば細かく分散されて、やせ細った我が軍はアリエル軍のウルフ部隊に飲み込まれる。
街を占拠しては、資金をばら巻き、臨時徴兵した現地部隊に守備を任せるも、英雄部隊が次の目的地に行くと、その隙を狙ってウルフの大部隊が街を取り返す。
兵の供給能力に劣る我が軍はアリエル軍を切り崩し続ける為にも、英雄〜ずの率いる本当の精鋭部隊の構成を崩す訳にもいかず、勝利を重ねつつも、まるで勝っている気がしない。
そんな中、唯一、本国からの戦力供給のハブ港として機能している、最初の戦闘で占拠した橋頭堡の街はハンマーヘッド隊による守備部隊を置いて、防備を固めていたが、それでもアリエル軍の神の加護付き部隊の度重なる襲撃に、これは叩きがいがあると頼もしげに言っていたハンマーヘッド隊がついにすり潰されるように消耗して壊滅、街が占拠された。
これはまずいと使い魔に奪還の命令を伝えるように言うが。
「奪還は無理です」
きっぱりと言い切られてしまう。
「無理と言うことはないだろう、ほらハイエルフのマジシャン部隊、あれで奪還を」
使い魔は首を横に振る。
「街が既にありません、てへ☆」
巫山戯たように使い魔が言うが、事実街は無くなっていた。
こちらに使われるよりかはと思ったのか、自らの手で元は自分達の街だった所を壊滅させていた。
「焦土戦術に出る気がやつらは」
「アリエル軍も追い詰められてきていると言う事ですね」
「確かにそれはそうかもしれんが、とにかく、こちらも英雄の数が足りない」
「そうですねー、折角神器作成もリサーチできたのに、まだ二人雇えますからね」
「よし、この際なんでも良い、とにかく英雄連れてこい」
「あら、マスターも捨て身の発言、追い詰められてますね」
ニヤニヤ笑いの使い魔。
「うるさいよ、お前」

そんな時、丁度タイミング良く英雄が仕官してきた。
「マスター、英雄の方が仕官に来ました」
「うむ」
使い魔の報告に神妙な面もちになる私。
確かに自分で英雄が欲しいとは言った、言ったが、
「また変な奴なんじゃないだろうな?」
「うーん、どうでしょう」
使い魔は見ていた英雄の身上書から顔を上げて言う。
不安だ不安過ぎる。
だがしかし状況は切迫している。今は遅疑逡巡している時では無い。無いが・・・・。
「くくくくく、きっとそうだ、またどうせ、始めはまともに見えても変な癖とかあるんだ、くくくくくく、そうに違いない」
私が自嘲的に笑うと、使い魔は痛ましげな顔をする。
「ああ、マスターが葛藤の果てにが軽く壊れた 、じゃあ、この人は追い返してきますね」
「それは駄目」
英雄が欲しいのは事実、折角の機会逃す訳にはいかない。
「マスターがそう言うなら」
と、使い魔は英雄の身上書を読み上げる。
「えーとですね、名前がザルドロン、特殊野力が賢者、術者持ちのセージの方ですね
賢者はマスターの呪文リサーチ能力を高め、術者はマスターの代わりに呪文をとなえる能力ですね」
なるほど書かれている事だけで判断すると、まともそうだ、だが。
「ふむ」
「どうしたんですか、マスター?」
このパターンはと私が考え込むと使い魔が覗き込んでくる。
「ふふふふふ、分かっている、私には分かっているぞ」
「なにが?」
「どうせそいつも、きっと別に変な特殊能力持ちだろ、そうに違いない」
「えー、そうでしょうか」
甘いぞ使い魔よ、今までの事からいって間違いない。
「そうだそうに決まっている、名前がザルドロンだから、そう、ザル泥んで、ドジョウ掬いしながら呪文唱える奴だ!」
私は使い魔に指を突き付け、言い放つ。
「マスター」
「なんだ?」
「さいてー」
「もったいつけて言う事かっっっ」
私の怒りも、いつもの事と軽く聞き流し、まったくと身上書のページを捲っていた使い魔だったが。
「あっ」
と、いう声をあげた
「そら、来たーっ、また何かあるんだろそいつも」
こいつが、こういう時にあげる『あっ』は、ある意味死亡フラグだ、必ずその後に予想だにしない変な事が起きる。
「いえ、その・・・・かなり高齢の方なので・・・」
「なんだ、まさか耳が遠くて人の話を全く聞かないというのか」
耳が達者でも人の話を聞かない奴はここには・・・・・殆どなので取り立て驚く事でも無い。
「あー、その可能性もありますね」
「可能性もある?じゃあ、なんだ、まさか既に惚けていて、間違った呪文唱えたり、リサーチしたりするとかか?」
「いえ、違います、矍鑠として、元気なお祖父さんです、なにせ、特技が若い女の子のお尻をひと触りするだけでサイズが分かる事とか書いてあります」
「ただのスケベ爺か」
がっくり肩が落ちる。
だがしかし、まだそれぐらいは許容範囲の内だ。
今までに比べればまともとも言える。
「いや、だからそれが問題じゃなくてですね」
それが問題じゃないだと?かなり問題じゃないのかそれは?
そう思うのだが、使い魔にしてみれば、それは大した事じゃないらしい。
そんな使い魔が身上書の一点を撫でながら言いづらそうにしている。
すっごく嫌な予感がしているのだが、ここまできたら聞くしかない。
「ええぃ、勿体付けず、さっさと言え」
意を決した使い魔が顔をあげる。
「その、ザルドロンさんですけど」
「うむ」
「すでに寿命過ぎてます」
成る程そうか、死んでるのか。
「って、ゾンビか、そのじじいはっっっっっっ!!!」
ここは、これまた珍しいなゾンビの英雄とはhahahaと、笑う所では無いだろう、絶対に。
いくらなんでもそんなのは居ない。
どういう事だと、興奮して机をバンバン叩く私を宥めつつ、使い魔は言う。
「そうじゃなくて、英雄の復活っていう呪文ありましたよね」
「ああ」
「それが老衰で死んだのを戦死と勘違いして生き返らせてしまったらしくて、」
「そうか、それで寿命なのに生きてるという訳か」
「まあ、そんな訳で、そんな人はもう英雄としては使えないと首になった所『わしは生涯現役じゃい、まだまだお触りするんじゃっ』とわが軍に仕官してきた・・・・・という事です」
「・・・・・どんな仕官理由だそれは」
我が軍をどこかのメイド喫茶と勘違いしてないか、そのじじい。
「全くなんてじじいだ、」
「元気なおじいさんというところでしょう」
「元気って、ただ煩悩がどこまでも深いだけじゃないのか」
「まあ、そうとも言えますけど、それでどうします?採用します?」
「そんないつ死ぬか分からないような奴、したくないんだが」
「ですよね」
「でも英雄の復活で生き返ったって事は、アリエルの軍の所にいたのか」
「はい、あんな薄情な所はもう居られんと言ってましたし、スパイっていう訳じゃないみたいです」
「うーむ、だとするとその情報は欲しい」
なにせアリエル軍の戦力は今もこちらを上回っている。
その差を埋めるためにもアリエル軍の内情に通じている者は是非とも欲しい、だがすでにゲームオーバーな奴を雇うのは・・・・・
「とりあえず、会うだけ会おう」
もしよぼよぼで杖がなくては歩けないなんて様子だったら、情報だけでもなんとか聞き出して、追い返そうと考えつつ、ザルドロンの待つ部屋へと向かったんだが。
「お初にお目にかかる、わしがザルドロンじゃ、魔法のことならなんでもござれ、お主の呪文リサーチの補助でも戦場での魔法でも、このわしに、まーーかせなさい」
出迎えたのは、無駄に元気なじじいだった。
部屋に入るなり、椅子から勢いよく立ち上がったザルドロンは私の手を両手で握り、ぶんぶん上下にふり、乱暴な握手をする。
「は、はあ、私はこの城の主であるホルスです」
ザルドロンの勢いに飲まれて、しどろもどろに言うと。
「なんじゃ、お主一軍の総大将、もっと覇気が無くてはいかんぞ、もっと肉食え、肉、そして運動っ、このわしのようにならねばいかんぞ、がはははははは」
「・・・・・なあ、こいつほんとに寿命過ぎたじじいか、無茶苦茶元気だぞ」
「だからアリエルさんも勘違いしたんでしょうね」
「まさか、敵を散々焼いた後、食べるだけ食べて、飲むだけ飲んで、それでごろりと寝ころんんで、そのまま寝たのかと思ったら、実はぽっくり死んでただなんて、誰も思いませんもんね」
「また、ある意味羨ましくなるような逝き方だな」
ザルドロンはアリエルという名を聞くと嫌な顔をした
「アリエル!? ありゃ駄目じゃ、あいつはケチくさい、なにがもう十分働いてもらったから楽隠居してくれだ、人を余命短いじじいのように扱いおって」
いや、余命も何もあんた既に寿命尽きてるよ。
「わしは生涯現役じゃ、死んだらしまいじゃが、生き返ったら、また触って触って触りまくるんじゃ」
おひ、あんたセージだろ、知識を求める職じゃないんかい。
「・・・・・執着してるのは魔法じゃないのか」
「そうじゃ、わしは若いおなごの尻を堪能することで、こう魔法のインスピレーションが湧くタイプなんじゃ」
「サイテーのタイプだな」
「なんじゃっ、お主もけち臭い事をいうのか!?」
「いや、それよりもわが軍に仕官するということは、同時にかつて属していたアリエル軍と戦うという事になるんだぞ、それは良いのか?」
「無論、わしがまだまだやれるという事をやつらに見せつけてやるわい!」
まあ、この調子ならスパイという事は無いか、こんな変人我が軍以外仕官する所などないからな、それで来たんだろ、あはははのは
・・・・・なんだろ、目から汗が。

私がちょっとブルーになっていると、ザルトロンはがはがは、笑いながら。
「なんじゃ、元気がないのぅ、若いのにそれじゃあいかんぞ、まあこれからは、全てわしに任せて、大船に乗った気でいるがいい」

ドンッ

ザルドロンは力強く自分の胸を叩く。
大船って、あんたいつ沈むか分からない泥船じゃん、でもまあ、これだけ元気なら暫く大丈夫か
「・・・・・・」
「・・・・・・」
話が終わったのにザルドロンが動かない
「もう、採用する事に決めた、下がっていいぞ」
念の為に言ってみるが、それでも動かない。
「・・・・・・・」
「・・・・・・?」
「マスター」
使い魔がザルトロンの所までとことこ歩いていき、見上げて首を傾げる。
「なんだ?」
「死んでます」
「ぶっ!?」
「おそらく胸を叩いたショックで、心臓が止まったんでしょうね」
その言葉を裏付けるように、自分の胸を叩いた格好のまま、ばたりとザルドロンは後ろに倒れた。
「い、医者だ、医者を呼べッ 」
「いや、ここは英雄復活の魔法でしょ、マスター」

こうして、我々はやたら燃費の悪い新たな英雄を手に入れた。

いつ死ぬか分からないのだが、やたら元気なじじい、ザルトロンの参加の効果はそれでも大きかった。
その力もあるが、アリエル軍の兵力配置や戦力の補給地やなにより首都の位置が判明したのが大きい。
これでかつてシャーリー軍を葬った精鋭部隊の首都強襲が出来る。
障害となる街を押し潰し、後の事は知った事ではないと守備隊は現地召集兵に委任、ひたすら敵首都へと目指す博打。
だが、敵の潰す頭が分かれば、我らが英雄〜ずと精鋭部隊で片が付く、所詮敵はアリエル一人。
奴を潰せば、アリエル軍はもはや軍として体を為さない。
さらに我が軍に幸運が続いた、名声の高まっている我が軍にドラコニアンの英雄、ファングが加入したのだ。
初めは新たな戦力の増強による、新たな変人の増強などと覚悟していたのだが、
「わたしは武人として、今の自国の住民を根絶やしにしようかという、アリエル軍のやり様は我慢が出来ませぬ、家臣の端にでも加えて頂けるのなら、このファング、ホルス様の軍の剣の切っ先となりましょうぞ」
凄くまともな人だった。
ファングは言葉どおり、敵首都進撃途上にある街の攻略や、敵野戦軍の撃破に非常に役立ってくれた。
神の加護をつけたファングは常に先陣を切り、味方が雪崩れ込む突破口を作ってくれたのだった。
追い風はこちらに吹いている。
もはや憂慮すべき事は無い。

「ふふん」
「随分ご機嫌ですね、マスター」
「それは、そうだ、漸くこの苦しい戦いも終わりの時が来たのだ、最早敵は風前の灯火だ、ぬははははは」
「あー、そんな油断ぶっこいていると、また痛い目に遭いますよ」
「痛い目?なんだそれは、この状況で何も起きる訳が無いだろう 」
「えー、前にそうやって油断していて、クマに追い掛けられたじゃないですか」
使い魔も嫌な事を言う。
くすくすとメイド〜ずの笑い声。
お前らこういう時しか、存在見せないんだな。
「あ、あれは不幸な事故だ、既にモンスターの巣も遺跡も廃墟も潰してある、もう何も無い、そう、私はいまここに断言する!何も起きない!」
「へー、そんなに言うんなら、何か起きた時はマスターに責任をとってもらいますよ」
「責任? 良いでしょ、とりましょう責任でもなんでも」
あまりに使い魔が挑戦的なので、私もついそんな事を言ってしまった。

そしてその時は来た。
「マスター、報告です」
「なんだ」
「海賊に国庫の半分を奪われました」
「ぶーーーーーーっ!?」
思わず机に突っ伏してしまった。
「全く、マスターがあんな事言うから」
「ちょっと待て、私か、私のせいか?、そもそもなんでそんなに派手に盗られるんだ、国庫の半分だぞ!?半端な量じゃないんだ、金庫番の兵は何してたんだ、寝てたのか?」
まさかこいつ、前のやり取りを根にもって、ワザと警備を手薄に・・・・
などど邪推したのだが。
「イベントです、どうにもなりません」
こちらの思考を読んだらしい使い魔はしれっと言う。
「イ、イベントか・・・・」「
それならば仕方か無い。
というか、そんなイベントあったんだな。
「し、しかし、良く考えてみれば、何か良い事のイベントは敵にしか起きなくて、なんで私の時だけはそんなイベント・・・・・」
「とにかくっ」
私に続きを言わせず、ぴしゃりと使い魔が言う。
「自分の言った事の責任は、きっちり取ってもらいますからね」
「責任・・・・・」
ごくりと唾を飲み込む。
使い魔君の目付きも態度もとっても冷たかった。

そして翌日からその責任を取らされる事になった。

「なあ」
「なんですか、マスター」
「なんで、私の食事がご飯と梅干しだけなんだ?」
「勿論、我が軍の財政難の為です、マスターに責任をとってもらって節約を率先垂範してもらってます」
そう来るかい、使い魔君。
こりゃ一汁一菜の節約の神様も脱帽だね。
などと、馬鹿な事を考えている場合では無い。
此処で引き下がっては私の腹の虫が治まらない。ほんと、いろいろな意味で。
「だからといってこれは無いだろ、一応、私はこの国のトップだし、もう少しなんとかしてくれないか?」
なんとなく懇願口調なのが情けなかった。
今や世界の殆どを支配したというのに、いつまでたってもこいつと私の立場は変わらない。
「そうですね」
「分かってくれたか」
意外にも使い魔が折れてくれた。
なんだこいつ、私に少しお灸をすえるつもりで、こんな事をしたのか、あははは、お茶目な奴め。
私も本気にしてしまって馬鹿だなぁ
「はい、梅干しなんて贅沢過ぎました、塩かけて食べて下さい」
「そっち方向に、なんとかするんかいっっっ!!」
本当に私は馬鹿だった、こいつはマジもマジ、大マジだった。
「当たり前でしょ」
怒ってるな、お前、私の油断ぶっこき発言に、もの凄く怒ってるな。
その事を察した私は、最後まで決して気を抜きませんと誓約書まで書き、漸く普通の食事にありつく事が出来た。
きっと支配の魔法を完成させても、こいつだけはきっと支配出来ないな、
そんな事を思いつつ、普通の食事の有り難さをしみじみと噛み締めつつ食事を取る私であった。


そして

「敵首都一望の内に」

夏の暑い盛り、損害を被りつつも、果敢に前進を続けていた部隊の将から、その報告が届いた。
我が軍はついに敵首都への道を開いたのだ。
私はいよいよアリエルとの最終決戦に向け、英雄〜ずと連絡をとる。
連絡装置の鏡に映ったそれぞれの顔を見る。
ブシャンの髭は相変わらずぴよよんだった。
いつかあの髭を剃ってみたい、そう思った。
ヤラナは目の下に少し隈が出来ていた。
珍しい・・・・まさか、コ○ケの修羅場っっいや、考えるのは良そう、怖いから、そう思った。
セレナは私をうっとりと見ている、顔では無い、視線が腹に向いている。
お前はそれしか考えられないのかいっ、そう思った
ラキールは笑顔を浮かべていた。
抱いている子犬に舐められながら。
もういい、好きにしてくれ、そう思った。
ザルトロンは何か考え込んでいた。そうしていると賢者に見える。
しかし、時折にたりんとスケベそうに笑うので、考えている事が丸分かりだった。
お前もええ加減にせえや、そう思った。
ファングは武人らしくまっすぐこちらを見ている、頼もしかった。
しかし、まともなのが爬虫類だけかい、そう思った。

私は咳払いをすると皆に話しかけた。
「いよいよ、敵の首都への道は開けた」
そうこれが最後、ここに至るまで激しい戦いの連続であった。
時には大陸から海へと追い出されるのではという危機もあったが、それも乗り越えてきた。
皆、思う所があるのだろう、それぞれの感慨に耽り、私から視線を逸らす。
「最終決戦の前に何か質問はあるか?」
私のその一言で、また注目が集まる。
ファングが軽く手を挙げる。
「では一つ、聞きたい事があります」
「なんだ、ファング」
「なぜ敵兵は斬られた時も死ぬときも、笑顔を顔に張り付かせているのです?
いや、兵だけでは無い、占拠した街の住民もみんな笑っているのですが」
「・・・・・・・」
それは白魔法という名を借りた呪いの魔法がかけられているからです、なんて白魔法使いの私が言えると思う?ファングさん。
「ふむ、真剣な戦いの最中はもとより、占拠という恥辱にあっても笑うとは、なんとけしからん、全く我輩は敵の頭を疑う」
「所構わず笑うなんて、品性が疑われますわ、本当に嫌な敵ですわ」
「・・・・・・・」
おいおいあんたらがそれを言うのか、というか自覚無しかい、お二人さん。
「きっとマスターをどんな間抜けな殺り方で殺るか考えて、思わず笑ってしまってるのですです、ああ、私もそれを考えると、ぞくぞくしてきます」
「動物に囲まれて、ぼかぁ、幸せだなぁ」
「・・・・・・・」
あんたら黙れや。
「あ、そういえばアリエルの尻、触った事無かったのぅ」
「・・・・・・・」
お前も黙れやじじい。

「あー、ファングよ、その奇妙なのも今日の戦いに勝てば終わる、あまり気にするな」
「ふむそうであるな、私も武人として余計な事は考えず、ただ戦に専念しよう」
「うむ」
あんたほんと真面目だな、頼りになる兄貴だぜ。
「ふははははははは、その通り、我輩がいる限り勝ちは決まってるがな」
「おーほっほほほほ、わたくしが居るのです、負ける要素はありませんわ」
「うむ」
おいおい、さっきの自分の発言もう忘れてるよ、あんたら、本当に話を聞かない自己フィールド持ちだな、つか、笑うな。
「ああ、マスターを封印した時どんな面白い顔をするか、早くアリエルさんで試してみたいです」
「ああ、早く動物たちに囲まれたい、首都にはさぞかしいっぱい、居るんでしょうね〜」
「うむ」
だから黙れって言ってるんだ、電波系のお二人さん。
「オークのおなごは硬いが張りがあって、あれもなかなかの趣ががあったがの、きっとアリエルはシルクのような触りごごちだろうのぅ、うむ、ここはふんばるとしようかの」
「うむ」
じじいーーーーーーーっ!!!、お前オークまで手を出しているのか、ある意味尊敬だぜ、このナイスガイb

「では、行くぞ、勝ってこい」

「「「「「「 応 」」」」」」

こうして英雄〜ずとの最後の打ち合わせ(?)も終わった。

焦土戦術をとりつつ、最後まで防戦していたアリエル軍の最後の牙城が見える。
そこには将らしき将もなく兵らしい兵も居ない、しかし戦いの祭壇の備えられているそこに居るのは、戦意を極限にまで高められた無数の死兵達、油断は出来ず、こちらも英雄〜ず達率いる主力を差し向け、最終決戦に挑む。

始めは魔法合戦で始まった。
アリエルは神の加護、聖なる武器とありったけの補助魔法を味方にかけるが、こちらもありったけの魔力をこめた魔法消失で対抗。
互いの魔力は尽きた。

そしてこの長きに渡った魔術師戦争の最後の決着は、集められた兵達が

誰が始めた戦争か?
誰の者達の戦争か?

そんな事を問う事もなく、死力を尽くしてぶつかり合り、相手を殺し尽くす事で付ける事になった。
「ふはははははははは、喰らえ、味わえ、堪能せよ、高貴たる我が輩の弓を」
そのイキっぷりは既に伝説となっており、半神とまで呼ばれるようになったブシャンの弓矢が敵陣に吸い込まれる。
「そうれ、いくぞい」
生涯現役、エルフからオークまでを信条のザルトロン魔法弾、それに続くマジシャン達の
援護射撃の元、
「参る」
アリエル戦中の重要な戦いでは常に先陣を切ってきたファングが言葉少なに突入し、突破口を開き
「おーほっほほほほほほほ、わたくしの華麗なる剣捌き、見惚れる機会を与えてさしあげますわ」
最近とみにブシャンレベルに近付いてきたエレナが、開けた突破口を広げ
「さあ、ダメージは私が回復します、逝ってください」
相変わらず物騒な言い回しのセレナが治療の言葉で援護しつつ。
「さあ、怖がることはないんだよ、みんな行こうか」
と笑顔のラキールを先頭にバサーカー軍団が城壁を乗り越えて行き、最後の岩ではなく、肉の壁にぶち当たる。
夏草が風に吹かれ、草の葉の匂いでなく血の匂いが途切れず流れ続けるようになった頃、城壁は既に当初の形を保てずに瓦礫と化し、他の兵達も次々と町へと乗り込んで行き、ここに最終血戦の勝敗は決した。
その後の市街戦は戦いと言えるものではなく、それでも全てを掃討するまでは居城には近づけず、アリエルは尖塔の上に籠もり最後まで抵抗したがついに封印され、ここに魔術師戦争は集結した。




こうして私は勝利した。


私以外の全ての魔術師を封印し、支配の魔法すら手に入れた私は、魔導王として世界の絶対者として君臨する事になった。

あの戦争より幾星霜、かつての部下はもう誰も居ない。

あの使い魔も居ない。

あいつは私の魔法によって生み出された生物ではあったが、いくら魔力で補強しようと元とした身体の方に限界が来た。
日に日に弱ってきていても相変わらず減らず口を叩いていたが、いよいよ最後の時になって、非常にあいつらしく、誰にも知られずぶらりと出ていき、そして二度と戻って来なかった。

最後の部下であるファングが老衰で死んだ後、私は人形の世界の王となった。
全てを知り、全てを支配し、意見する者も逆らう者も居ないただ時が流れていく世界。
年数を数えるのはとっくに止めていた。

そんな中、ふと城の地下、誰の訪れる者の無い埃のつもった小部屋へと赴く。
ここはかつて、こともあろうに記憶喪失でろくに効果も知らないのに魔法を行使していた未熟な魔術師が、主人を主人とも思わない言語道断の使い魔と共に魔法のリサーチをしていた場所。
絶対の存在である魔導王の恥部と人は勝手に思い、その怒りに触れる事の無きように忘却という永遠の封印を施された、誰も訪れぬ場所。

ふと

「マスター、今更こんな所になんの用ですか?」

そんな声を聞いた気がする。
幻聴だろう。まあそれはいい、どうでも良い事だ。

「また、何か教えて欲しい事があるんですか?今じゃもう魔導王なんて言われてますから、人に聞くのは恥ずかしいんでしょ」

くすくす笑う声。
そうか、生きている者は笑うものだったな。
ここ数百年、どの場所に居ても耳にした事なかったので忘れていた。

「支配の呪文の使い方だがな」

私は話しかける。

「はい」
「過去に戻れないか?」
「戻るんですか?」

ああ

「全て忘れてな」
「うーん、今度も勝てるかどうか分かりませんよ」
「そうだな、今度も勝ってしまうかもしれん」

そうだ

「そうですか、最後の記憶も思い出したんですね」
「うむ」

思い出した。

「でも、流石の支配の魔法も過去には戻れませんよ」
「そうか」

私はかつて同じ会話をしたのだった。

「でも、新たな世界は造れます、人の数だけ、人の選択だけ、人の想いだけある平行世界は」

そして私は

「うむ、ではいくか」
「マスター、またご一緒しましょう」

また始めるのだ。


「それじゃあ、マスター、魔術師戦争を始めましょうか」


あの騒々しくも楽しい日々を。
ムクドリ
2008年04月29日(火) 00時05分45秒 公開
■この作品の著作権はムクドリさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
長い間書かせてもらったリプレイ記(?)も漸くここで終わりです。
なにせ説明書無しの手探りプレイ、肝心の魔法をあまり使えこなせずの力押しプレイだったのですが、一回クリアして、漸くやり方も分かってきたので、次はもっと難しいレベルでプレイしてみたいと思います。

この作品の感想をお寄せください。
おおー。最後の辺り、読めますね。素晴らしい。 50 デミ ■2009-06-27 17:58:26
無限の平行世界をいくらでも創造し直して、何度でも遊べるのがこのゲームのいいところですよね。お疲れ様でした。 10 月読 ■2008-07-30 01:39:51
お疲れ様でした。おいしゅうございました。 50 あむぁい ■2008-06-26 07:39:00
予想外に綺麗なエンディングで驚きました。最後の雰囲気で一本丸々読んでみたいです。 30 ぺんぎん ■2008-05-10 22:58:01
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